遺伝子の変化とは？

遺伝子が体重の決定に関与していることは、広く認識されるようになりました。たとえば、異なる環境で育った一卵性双生児を対象とした研究では、40〜70％の双子が同じようなBMIになる傾向が示されています。

ただし、肥満に関連する遺伝子が数多く発見されているにもかかわらず、これらの遺伝子は体重に及ぼす遺伝的な影響の４分の１程度しか説明できず、まだ謎が残っています。

そうしたなかで、最近の研究では、「メチル化」として知られる遺伝子の生後の変化が注目されています。これは、受け継いだ遺伝情報（DNAの塩基配列）が同じであっても、メチル化（DNAの塩基の一部にメチル基という化学成分が結合する）という変化によって、遺伝子の読まれ方が変わるという現象です。

そこで今回、ドイツをはじめとする国際的な研究グループは、満腹感やエネルギー消費の調節に重要な役割を果たす「POMC」という遺伝子のメチル化に着目して研究を進めました。

従来の研究により、POMC遺伝子に遺伝子変異があると、過食や肥満につながることがわかっていますが、研究グループは以前に欠陥がなくてもPOMCのメチル化が太った人で見られることを発見しています。そこで今回、POMCのメチル化が与える影響についてより深く調べるため、1100人以上の参加者を対象に全ゲノム解析を行いました。

「メチル化」が多いとリスクアップ

こうして確認されたのが、POMC遺伝子のメチル化レベルが特に高い（多くの分子がメチル化している）と、女性では体重が増えるリスクが44％高くなることでした。

体重が重い女性（BMI35以上）では、正常体重の女性より多くのメチル化がPOMCで認められました。研究グループによると、このリスク増加は遺伝子変異によるリスク増加とほぼ同程度で、女性だけで見られる理由については不明でした。

一方で、今回、メチル化レベルの高いPOMC遺伝子をもつ太った人（女性４人、男性１人）に対して、空腹感を抑える医薬品（POMC遺伝子変異をもつ人向けに承認されている）を試したところ、平均７kg（体重のおよそ５％）の減量に成功しました。

医薬品はあくまでも肥満治療の一部ですし、長期効果や安全性についてさらに調べる必要がありますが、POMC遺伝子の生後に起きた変化にも医薬品で対応できる可能性があると研究グループは指摘しています。

人によって体重の増え方、あるいは減り方はさまざまですが、体重の個人差にアプローチするうえで、遺伝子に対する関心がますます高まるかもしれません。

＜参考文献＞

Lechner L, Opitz R, Silver MJ, Krabusch PM, Prentice AM, Field MS, Stachelscheid H, Leitão E, Schröder C, Fernandez Vallone V, Horsthemke B, Jöckel KH, Schmidt B, Nöthen MM, Hoffmann P, Herms S, Kleyn PW, Megges M, Blume-Peytavi U, Weiss K, Mai K, Blankenstein O, Obermayer B, Wiegand S, Kühnen P. Early-set POMC methylation variability is accompanied by increased risk for obesity and is addressable by MC4R agonist treatment. Sci Transl Med. 2023 Jul 19;15(705):eadg1659. doi: 10.1126/scitranslmed.adg1659. Epub 2023 Jul 19. PMID: 37467315.
https://www.science.org/doi/10.1126/scitranslmed.adg1659

More than just lifestyle and genes: New factor influencing excess body weight discovered
https://www.charite.de/en/service/press_reports/artikel/detail/more_than_just_lifestyle_and_genes_new_factor_influencing_excess_body_weight_discovered/