FYTTE

Healthcare
CATEGORY : ヘルスケア |不調

腸に炎症を起こす「クローン病」。病気悪化のメカニズムのひとつが明らかに

Share
お腹を押さえる女性

腸の不調の原因になる炎症性腸疾患は、安倍首相が退任した理由のひとつとして注目されました。炎症性腸疾患には潰瘍性大腸炎とクローン病という病気が含まれており、日本でも多くの人が悩まされています。腸の内部がただれるなどして生活に支障を来たしますが、海外の研究によると、そのメカニズムも徐々に明らかになってきているようです。

監修 : 星 良孝 <ステラ・メディックス>

ステラ・メディックス代表取締役社長 獣医師/ジャーナリスト
専門分野特化型のコンテンツ創出を事業として、医療や健康、食品、美容、アニマルヘルスの領域の執筆・編集・審査監修を担っている。東京大学農学部獣医学課程を卒業後、日本経済新聞社グループの日経BP社において「日経メディカル」「日経バイオテク」「日経ビジネス」の編集者、記者を務めた後、医療ポータルサイト最大手のエムスリーなどを経て、2017年に会社設立。YouTubeステラチャンネルでもヘルスケアの話題を発信。
YouTube:https://youtube.com/@stellach

Contents 目次

クローン病はなぜ起こる?

顕微鏡をのぞくドクター

クローン病は前述の通り腸に炎症が起こってただれてしまう病気のひとつで、何が原因となるのか研究が進められています。クローン病になると薬で治しきれずに、ただれてかたくなってしまった腸の一部を手術で除くこともあります。そのときに病状の悪化を知る手がかりになるのが、腸が脂肪によって厚く覆われてしまう症状です。クローン病特有の特徴となっており、「クリーピング脂肪」――腸を這うように存在する脂肪と呼ばれます。同じ炎症性腸疾患の潰瘍性大腸炎では見られないため、理由はよくわかっておらず、これまで謎とされていました。

米国の研究グループは、このクリーピング脂肪が病気を悪化させているのか、または逆に何かから腸を守っているのか、その影響を調べたのです。手術を受けた11人の患者からの小腸と脂肪組織をとって検査して、詳しく分析しました。

関連していたのは腸内の細菌

お腹と腸

こうして判明したのは、腸を覆う脂肪が増えてしまうのは、ある腸内細菌が影響しているということです。このたびクリーピング脂肪ができる理由として浮かび上がったのは、「クロストリジウム・イノキューム」という細菌が腸から漏れ出ようとして、この細菌が全身に回らないよう体を守っているということ。脂肪が厚く腸を包むことで保護しようとしていると見られたのです。

この脂肪は体にとっていいように見える半面で、腸の周囲を線維質のかたい組織で包んでしまい、腸が正常に機能できなくなる原因にもなっていました。クリーピング脂肪はよい面がある一方で、悪い面があるわけです。結果として、かたくなった腸を手術で切りとらなくなる場合があるわけで、難しい問題といえます。ひどくなると手術は唯一の選択肢になり、人生を変えるほど心身に影響を及ぼす可能性もあるのです。

クローン病は日本でも少なくありませんから、こうした研究から新しい治療が生まれてくることが望まれます。クローン病では腸内細菌の存在が病気を重くしている可能性があるという事実は、病気の人にとって参考になる研究になってきそうです。

<参考文献>
Medical Mystery: ‘Creeping Fat’ in Crohn’s Patients Linked to Bacteria
https://www.cedars-sinai.org/newsroom/medical-mystery-creeping-fat-in-crohns-patients-linked-to-bacteria/

Ha CWY, Martin A, Sepich-Poore GD, Shi B, Wang Y, Gouin K, Humphrey G, Sanders K, Ratnayake Y, Chan KSL, Hendrick G, Caldera JR, Arias C, Moskowitz JE, Ho Sui SJ, Yang S, Underhill D, Brady MJ, Knott S, Kaihara K, Steinbaugh MJ, Li H, McGovern DPB, Knight R, Fleshner P, Devkota S. Translocation of Viable Gut Microbiota to Mesenteric Adipose Drives Formation of Creeping Fat in Humans. Cell. 2020 Sep 22:S0092-8674(20)31150-8. doi: 10.1016/j.cell.2020.09.009. Epub ahead of print. PMID: 32991841; PMCID: PMC7521382.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/32991841/
https://www.cell.com/cell/fulltext/S0092-8674(20)31150-8

関連記事

  1. Fitness週末だけの運動でも健康に効果はあるの!? 海外研究が導き出した結論は…?

    週末だけの運動でも健康に効果はあるの!? 海外研究が導き出した結論は…?

    0
  2. Healthcare発症リスクが半減! 大腸がん検診の効果は「予想以上に大きい!」と海外研究の報告

    発症リスクが半減! 大腸がん検診の効果は「予想以上に大きい!」と海外研究の報告

    0
  3. Healthcare双子の研究から明らかに! ヴィーガン食が心臓や血管の病気のリスクを下げる3つの理由とは?

    双子の研究から明らかに! ヴィーガン食が心臓や血管の病気のリスクを下げる3つの理由とは?

    0
  4. Healthcare歩くスピード速いと糖尿病のリスクが低下! 「時速4kmが分かれ目」と海外研究が指摘

    歩くスピード速いと糖尿病のリスクが低下! 「時速4kmが分かれ目」と海外研究が指摘

    0

おすすめの記事PICK UP