近年の巨大地震に加え、線状降水帯による大雨や猛暑下での停電など、災害が複合化・長期化するリスクが高まっています。防災意識が高まる一方で、「備蓄疲れ」という新たな課題も浮上しています。今回は、災害医学の専門家である松村福広特命教授(自治医科大学 栃木県災害医学寄附講座)の解説をもとに、「フェーズフリー」と「ごほうび備蓄」という、続けやすい新しい防災食のかたちをご紹介します。※本記事は森永製菓の資料を元に作成。
Contents 目次
備蓄の現状

「食料・飲料水」への備蓄意識は過去最高水準
内閣府の世論調査(令和7年8月調査)によると、「自然災害が起こったときの対処方法について家族や身近な人と話し合う内容」として「食料・飲料水について」と答えた人は67.1%に達し、前回調査(令和4年9月:64.7%)からさらに増加しました。相次ぐ大雨や地震のニュースを受け、多くの家庭で食の備えの重要性が強く認識されており、水や食料は当たり前に備えている状態になりつつあります。
出典元:内閣府世論調査「防災に関する調査」(防災に関する世論調査(令和7年8月調査)世論調査 内閣府)
新たな課題は「備蓄を続けること」
食料・飲料水への意識が高まる一方で、課題として浮かび上がっているのが、備蓄を継続することの難しさです。「非常時のためだけ」に備蓄していると、ふだんの生活で消費する機会が少なく管理の負担が大きくなり、「備蓄疲れ」につながりがちです。また「賞味期限切れ」をきっかけに備蓄をやめてしまうケースも多く、「備蓄を続けること」が大きな課題となっています。
注目される「フェーズフリー」。栄養面 「体の健康」のための選択
こうした課題の解決策として注目されているのが、「フェーズフリー」という考え方です。日常時と非常時を分けて考えるのではなく、ふだんから使っているものが非常時にも役立つ状態を目指します。ふだん食べているものを少し多めに買い置きし、古いものから順に消費しながら一定量を備蓄することで、ムリなく備えを続けることができます。
また、災害時に食べ慣れたものを口にできることは、栄養補給だけでなく心理的な安心感にもつながります。慣れない避難環境でのストレスを和らげ、心身の健康を保つためにも、日常に近い食生活を維持することはとても重要です。
「フェーズフリー」におすすめの食品4選

フェーズフリーでは「長期保存できること」に加え、「ふだんからムリなく食べ続けられること」も重視します。おすすめの食品をご紹介します。
(1) 野菜ジュース
ビタミン・ミネラルを手軽に補給。水分補給にもなり、食欲がないときでも摂取しやすい。持ち運びしやすい点も◎。
(2)肉・魚・果物の缶詰
長期保存が可能でたんぱく質・ビタミン・エネルギーを補給できる。調理不要でそのまま食べられる利点も。
(3)チーズ・プロテインバー
たんぱく質・カルシウムなど必要栄養素を効率よく補給。味のバリエーションも多く食事の楽しみにもなる。
(4)ゼリー飲料
栄養と水分を同時にとれる。食器・調理不要で場所を選ばず摂取でき、腹持ちもよい。ふだん使いもしやすい。
備蓄をもっと楽しく「ごほうび備蓄」。義務感を「楽しさ」に変える発想の転換
「フェーズフリー」をさらに一歩進めた考え方が「ごほうび備蓄」です。ふだんは手が出せない有名店のレトルトカレーや地域限定の缶詰など、少しぜいたくな食品を備蓄することで、「消費しなければならない備蓄」から「食べるのが楽しみな備蓄」へと発想を転換することができます。
また、お気に入りのお菓子を少し多めに買い置きしておくことで、賞味期限が近づいたタイミングにお菓子を楽しみながら消費できるのも、ごほうび備蓄の大きなメリット。「備えなければ」という義務感や苦痛を「ごほうび感」や「楽しさ」に変えることで、防災備蓄をムリなく長続きさせることができます。
心のケアにも。メンタル面からみた備蓄食の選択
「ごほうび備蓄」には、栄養補給だけでなく心のケアという側面もあります。非常時には不安やストレスが高まりやすく、子どもも大人も心が落ち込みがち。心のダメージは目に見えにくいですが、災害や危機的状況では恐怖や喪失感からさまざまな不調が生じます。
お菓子が持つ、色とりどりの華やかなパッケージ、甘い香りや味わい、かわいらしいキャラクターは人々の心を癒し笑顔をもたらします。また、ふだんから食べ慣れたお菓子が「安心感」を与えてくれるのも大きなポイント。単なるし好品ではなく「もしものときに心と体を癒す補助食材」として、防災バッグの空きスペースに入れておくこともおすすめです。
ごほうび備蓄におすすめの食品3選

(1)有名店監修の高級レトルト
ふだんは少し特別に感じるレトルトカレーや高級食材のレトルト食品。賞味期限が近づいたら「食べてみたい」という楽しみがあるため、ムリなく備蓄を続けやすい。
(2)地域限定などの高級缶詰
地域の名産品を使った缶詰や高級缶詰は、備蓄品でありながら「ちょっとしたごちそう」として楽しめる。備蓄の入れ替え時にも特別感を味わえる。
(3)お菓子類
お気に入りのお菓子は、非常時の空腹を満たすだけでなく、慣れ親しんだ味や香りで気持ちをほっと落ち着かせてくれる。「備えなければ」という義務感を「楽しみながら備える」習慣に変えてくれる。
「フェーズフリー」と「ごほうび備蓄」が目指す、新・防災食

「災害時であっても、『食』は私たちの生活に欠かすことのできない大切な必需品です。ふだんの生活では当たり前に手に入る食べ慣れた食品も、災害時には思うように入手できないことがあります。そのような状況の中で、いつも食べている味にふれることは、空腹を満たすだけでなく、不安や緊張が続く心を落ち着かせ、安心感につながります。
日頃から食べ慣れた食品を少し多めに買い置きし、ふだんの生活で消費しながら補充していくことは、『フェーズフリー』の考え方にも合った備えです。特別な非常食だけを用意するのではなく、日常と非常時をムリなくつなぐことで、備蓄品をムダなく活用することができます。
さらに、備蓄品の中に自分や家族の好きなお菓子やお気に入りの食品を加えておく『ごほうび備蓄』は、災害への備えを前向きなものに変えてくれます。彩りや香り、そして食べ慣れた味は、非常時の不安を和らげる大きな力になります。『もしものための備え』を、『いつもの暮らし』の延長として楽しみながら続けること。それが、フェーズフリーとごほうび備蓄が目指す、新しい防災のかたちではないでしょうか」(松村福広 特命教授)
防災の日に、まずはいつもの食材を「少しだけ多めに」買ってみることから始めてみませんか。
【監修者】
松村 福広(まつむら ともひろ)特命教授
自治医科大学 栃木県災害医学寄附講座 特命教授。災害医学のプロとして、防災の課題や備蓄のあり方について研究・啓発活動を行っている。森永製菓と連携した「食とお菓子の防災教室」では、食やお菓子をテーマに防災に役立つ知識と情報をわかりやすく発信している。
文/FYTTE編集部



