不妊治療をきっかけに立ち上げた会社「mederi」

女性向けwebメディアのディレクター、COO、代表取締役とキャリアを重ねてきた坂梨さんが、「mederi株式会社」を立ち上げたのは2020年。

「じつは、わたし自身が不妊治療をはじめて６年目でして、お金と時間をかけてもなかなか子どもを授かれないということを、今もなお経験しています。不妊治療３年目くらいまでは、その現実を受け入れることができなかったのですが、４年目に突入したときに、３年間全力を尽くしたなかで授かれなかったことも自分の個性なんじゃないかと思い始めて、ポジティブに前に進もうと思えるようになったんです。また、パートナーと子どもを授かれなかった場合、どういう選択をしていくのかということをじっくり話し合って、家族の方向性を見つけられたのも大きかったですね。これらの経験をもとに、妊娠をするにはタイムリミットがあることを含め、多くの人に女性の体について知ってもらいたいという想いでこの会社を立ち上げました」（坂梨さん）

「mederi（メデリ）」の社名には「自分を愛でる」という意味と、妊娠・出産など女性の健康課題に寄り添うために医学的な知識が必要になるため、「medical(メディカル)」の「med」も入っていると教えてくれました。

自宅で診療が受けられ、産婦人科での待ち時間が不要の「ｍederi Pill（メデリ ピル）」

オンラインピル診療サービス「ｍederi Pill（メデリピル）」を始めることにしたのは、妊娠するにはタイムリミットがあることを早くに知ってもらうため、生理に着目したといいます。

「わたしが不妊に至ったきっかけが生理不順を放置してしまったことにあります。
10代から10年間、不妊治療を望むまでは低用量ピルを飲んでいて、おかげで生理不順は改善しました。しかし、26歳のときに結婚前のブライダルチェックで産婦人科に行ったとき、卵巣に卵子がどのくらい残っているかを調べるAMH検査（卵巣予備脳検査）をすると、わたしの場合、AMH値が閉経している人の値で、早発閉経だと言われてしまったんです。10代のときに、将来子どもを産みたいならAMH検査をしたほうがいいよ、というところまで教えてくれていたら…という思いもあり。そういった情報を、20～30代の女性に伝えられる商材はないか？と考えました」

「産婦人科は、子どもを産みたい人や婦人科検査を受けたい人、生理について悩んでいる人など、いろんな人が受診するため、待ち時間が読みづらいですし、10代など若い人ほど、まわりの目を気にしたりして、居心地の悪い思いをしていることは少なくありません。わたし自身、学生時代は“ピル＝避妊薬”というイメージでネガティブにとらえられたりもしました。そこで、オンライン診療で、移動時間や待ち時間なしに、おうちでリラックスして受診できる「ｍederi Pill」を考えたんです」

避妊薬としてだけではなくピルにはメリットがたくさんあります。

「生理痛や、PMS（月経前症候群）と呼ばれる、生理が始まる３～10日前くらいから現れる身体面・精神面の不調や、生理周期によるニキビなどの肌荒れの改善のほか、ピルによって卵巣を休ませることで、子宮内膜症や卵巣がんの予防にもつながると言われています」（坂梨さん）

初回は送料550円だけのリーズナブルさもうれしい

「ｍederi Pill」の利用の流れはとても簡単です。

「まずLINEでお友だち登録をしていただいて、そこから診療予約と情報登録、問診回答をしていただきます。診療日当日に、提携するクリニックの産婦人科の先生からテレビ電話で５～７分の診療があります。このとき、音声のみでもOKです。産婦人科の先生の９割は女性ですが、女性を希望の場合には事前問診の備考欄に明記いただければアレンジさせていただきます。
そして診療時にピルを処方されたら、最短翌日にご自宅のポストにピルが届きます。初月のピル代は０円で、診察代はずっと無料。初回は送料550円のみで、２回目からはピル代2970円+送料550円でご利用いただけます」

ただし、診療の結果、ピルが飲めない人もいます。

「生理が３か月来ていない人、原因不明の不正出血がある人、中等度以上の高血圧の人、血栓症のリスクが高い方は、医師の判断のうえ、ピルが処方できないことがあります」（坂梨さん）

しかし、診療代は0円と敷居が低いため、まずは気軽に予約し、オンライン診療で医師に相談してみるのがおすすめです。

将来的にはフェムテックではなく、ヒューマンテックを目指したい

2020年に自民党が発足した「フェムテック振興議員連盟」を知り、自分から問い合わせて、議会に定期参加しているという坂梨さん。現在のフェムテックの現状や今後に期待することはなんでしょう？

「フェムテックやフェムケアといった言葉は、この２～３年で浸透してきたとはいえ、まだまだ啓蒙が必要な領域だと思います。リテラシーの高い人が使っているような印象があるので、もっと一般化するためには、国を含めて、いろんな企業と一体になって知識の啓蒙を行っていかないとと思います。ただ、フェムテックは今のフェーズで、将来的にはヒューマンテックを目指さないといけないという思いがあり。女性の健康課題だけでなく、最近は男性にも更年期があると言われていますし、性別関係なく健康を維持してほしいという意味で、数年後には“ヒューマンテック”として着手したいと考えています」

では、今後、「mederi」としての展開はいかがでしょうか？

「更年期の方向けのオンライン診療を検討しています。更年期の症状というのは、ちょっと暑いとか、なんかイライラするなど、小さな不調からスタートするので、『こんなにふわっとした症状で病院に行っていいのかな』という人が多いと思います。ただ、そういうちょっとした不調を抱えて何年も過ごすのではなく、早めに診てもらい、適切な治療で健康に過ごしてほしいと思っています。
あとは、すでに行っているのですが、妊活を早く始めることの大切さなどを知ってもらいたく、中学・高校・大学で性教育をテーマにしたセミナーを開催したり、社会人に向けては管理職がどうフェムテックにアプローチするかのセミナーを開いたりしています。今の時代は情報量が多く選択肢が増えていますが、自分にとって本当に必要なアイテムはなんだろうと選択する力は、知識でしかありません。そのためのお役に立つ情報を発信していきたいと思います」

「妊娠・出産を望む・望まないは人それぞれですが、妊娠・出産を望む人のなかには、自分の体について過信していたことを後悔する人もいます。妊孕力（にんようりょく）は35歳くらいからグッと下がってくるので、もっと早く妊活しておけばよかったとならないように、毎月１回きちんと正しい周期で生理がきていることを確かめ、毎年の健康診断はもちろん、婦人科検診も行って、自分の健康を守ってください。生理痛だけでなく、経血量の多さなど生理の不調はピルで改善できることもありますので、ぜひ一度『ｍederi Pill』をご利用ください」（坂梨さん）

坂梨 亜里咲さん
mederi株式会社 代表取締役。大学卒業後、ECコンサルティング会社に勤務。女性向けwebメディアのディレクター、COO、代表取締役を経験した後に、2020年自らの4年にわたる不妊治療経験からmederi株式会社を創業。

撮影／我妻慶一　文／奥沢ナツ