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保険適用で不妊治療はどう変わった? ドクターが解説! 現代女性の妊娠・出産、ライフプランにまつわる“リアル・フェムケア”
女性の社会進出が進むなか、妊活と仕事の両立に悩む女性も少なくありません。また不妊治療をめぐっては2022年4月には不妊治療が保険適用となり、社会でも新しい動きが出てきています。これから妊娠・出産を考える場合には、どのような情報に着目したらいいのでしょうか。女性医学に詳しいクレアージュ東京レディースドッククリニック婦人科顧問の大島乃里子先生にうかがいました。
Contents 目次
不妊治療とは? 保険適用のポイントは?
日本産科婦人科学会のまとめによると、2020年に誕生した新生児の約14人に1人が体外受精(顕微授精含む)によって出生。また、国立社会保障・人口問題研究所が2021年に実施した出生動向基本調査によると、4.4組に1組の夫婦が実際に不妊の検査や治療を受けたことがあるそう。
いまや身近になっている不妊治療。主な治療にはタイミング法や人工授精を含む一般不妊治療と、体外受精などの生殖補助医療があります。
●タイミング法…超音波やホルモン検査などで排卵日を予測し、妊娠率が高くなる日に性交渉をもつタイミングを医師が指導する方法
●人工授精…排卵の時期に合わせて、精子を管で直接子宮に注入する方法
●体外受精…卵子と精子を体外で受精させ、子宮に戻す方法
●顕微授精…顕微鏡を使い卵子に直接精子を注入して受精させ、受精卵を子宮に戻す方法
「厳密に定義すると、妊娠を希望して1年間避妊することなく性交渉をしているにもかかわらず、妊娠が成立しない場合を不妊症といい、その治療を“不妊治療”といいます。以前は不妊の原因を調べるための検査や原因となる症状を治療するときにのみ保険が適用されて、体外受精などの不妊治療には保険が適用されませんでした。ですから、高額な費用がかかる治療時には特定不妊治療費助成事業という助成制度を利用して、その負担を軽減するのが一般的でした」(大島先生)
厚生労働省が2020年に実施した調査によると、体外受精にかかる費用は1回あたり平均で約50万円。不妊治療は高額なのがネックになっていましたが、2022年4月の制度が改正されてからは人工授精や体外受精といった、これまで助成金を申請していた治療にも保険適用がされ、自己負担は原則3割になりました。
ただ、すべての治療に対して保険が適用されるわけでないため、不妊治療を始めるにあたり、いくつかの注意点を押さえておく必要があります。
年齢や治療内容によって保険適用にならないケースも
まず大きなポイントとなるのが「年齢」です。
「不妊治療の保険適用対象となるのは、治療開始時点で43歳未満の人のみ。適用回数にも制限があり、体外受精で40歳未満は6回、40~42歳は3回といったように、年齢によってその回数も異なります。そして43歳以上の人はすべて自費診療になります」
また、「混合診療」ができないという点も気をつけたいところ。
「たとえば、国が認めた保険適用の標準治療に、妊娠率をさらに高めるためのオプションで保険適用外の治療や薬剤を併用しようとすると混合診療になるため、その不妊治療にかかる費用は保険適用分も含めすべて自費になってしまうのです。ただし保険診療に先進医療を併用することは可能です 」
保険適用のメリット・デメリットを見極めるには?
高額な費用の不妊治療に保険が適用されるようになったことは、経済的な負担が減り、治療を受けるハードルが下がるというメリットがあります。しかし、一方では保険適用前にあった体外受精1回あたりの30万円の助成は廃止されているため、年齢制限や治療内容によっては治療にかかる費用がすべて自己負担になり、かえって負担が大きくなるケースも。
「年齢によっては保険を適用して治療を進めたほうが費用を抑えられる人もいれば、42歳以上で妊娠・出産までのリミットがわずかの人なら、初めから自費診療で最新の治療を行ったほうが最終的な妊娠の確率は上がるかもしれせん。女性の場合、年齢と不妊は直結しており、年齢が上がるほど妊娠の力が低下していくことはデータから明らかになっています。妊娠に備えて生理周期・排卵日の把握、基礎体温の測定や子宮内膜の状態を定期的に検査し、医師の指導のもと自分の体に合った治療方法を検討していきましょう。不妊治療を先送りすることで妊娠率が下がるリスクを考慮し、体の状態と年齢、費用を含めて考え、不妊治療の保険適用が自分にとってメリットなのかデメリットなのかを見極めてほしいですね」
早めに自分の体を知り、ライフプランの設計を
妊娠・出産を希望する場合、年齢の影響を受けやすい女性は早めのライフプランの設計が必要といえますが、そのためには、どう情報を収集し、考え、選択して行動していけばよいのでしょうか。
「現代女性の働き方や晩婚化の背景を考えると、女性の社会的なライフプランと年齢的な実情が一致していないという課題を感じずにはいられません。一方、妊娠・出産のことは仕事が落ち着いてから考えればいいと思っている男性も意外と多く、女性の体のことを理解していないケースも多々あります。妊娠・出産など女性の体に関わる知識について、男性も理解を深めることが社会課題のひとつ。そして女性には年齢による体の機能の変化や、利用できる保険の制度にも制限があることを、男女とも情報として知っておくことが重要です。ここ数十年で体外受精などの生殖補助医療分野はかなり進化しているので、不妊治療にかかる費用やライフプランの計画を進めていけるよう、医療や社会的な動きなど必要な情報には常にアンテナを巡らせておきましょう」と大島先生。
将来、妊娠・出産を希望しているけれど、いきなりクリニックを受診するのはハードルが高い、相談する場所がないという人は、「プレコンセプションケア」を活用するのも一案といいます。
プレコンセプションケアは、将来的に妊娠を考えている女性やカップルが生活習慣や健康維持について考えること。健康診断と同じ扱いになるため、基本的に自費診療になりますが、卵巣年齢の検査、骨密度測定や腹部超音波検査など、現在の健康状態を検診でチェック。妊娠のための体の準備が整っているかどうか、男性の場合は精子に問題がないかといったことを調べるほか、場合によっては栄養指導なども行います。
「女性が40代近いなど高齢の場合はすぐにクリニックを受診して、必要に応じた不妊治療を受けることをオススメしますが、妊娠適齢期といわれる20代~30代前半の人であれば、プレコンセプシンケアをひとつのきっかけとして、妊娠・出産に向けた準備をしていくのもよいでしょう」
さまざまな生き方を選択できる時代だからこそ、どのようなライフプランを描くか―。将来を視野に入れ、女性の健康や体について知識を深めることがポイントのひとつになりそうです。
取材・文/番匠 郁