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「疲れたら寝る」では不十分!? 疲労の反対は休養ではない? 『休養学』著者・片野秀樹先生に聞く、正しい休み方
近年「休養」に注目が集まっています。FYTTEでは2026年下半期ヘルスケアトレンドワードに「休養リチュアル」を選出しました。これは深呼吸やデジタルデトックス、静かな時間を作ることなど、日々の小さな習慣を、自分を整えるための“儀式”としてとり入れる休養方法です。そこで今回は『休養学』の著者で、一般社団法人日本リカバリー協会代表理事の片野秀樹先生に、あらためて「休養」についてお話を伺いました。「休養」という言葉そのものから、休養方法の捉え方、とり組みの広がりまで、全4回のシリーズでお送りします。
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なぜ「正しい休み方」がわからない? 休養を学ぶ機会が少ない日本

――著書『休養学』が、発売から2年半経った今も大変話題です。休養という言葉自体はとても身近なものですが、休養について実はよく知らなかったとハッとしたり、正しい休み方を知りたいと思ったりした人が、世のなかにはとても多かったということでしょうか?
片野先生:私が休養についてとり組みを始めたのが、かれこれ20年近く前です。活動の原動力となってきたのは、休み方についての学問体系がないこと。健康作りの三要素は「運動・栄養・休養」ですが、このなかで義務教育において習わないのが休養だけなのです。栄養学や運動学は、大学でも学べるような環境が整っていますが、残念ながら休み方についての学問体系はありません。『休養学』の反響の背景にも、そのようなことがあるかもしれません。
みなさん、休むことが必要なことはなんとなくわかっていると思うんですね。ただ、休養について学問体系がないため、どのように休んだらいいかがわからなかった。よく知らない、勉強していない、リテラシーがないものに関して、私たちは過去の経験に頼るしかない。そこでみなさん「疲れたら寝る」「たくさん寝る」という経験しかない。栄養学であれば、たとえばカロリーがどのくらい必要で、夏場にはこういう栄養をとったほうがいいというようにロジカルに考えられるんですが、休養に関してはそのベースがないので、考えられないんですね。
――学ぶことで、休養習慣を変えることができるのでしょうか?
片野先生:はい。たとえば、朝の光のとり入れ方や昼間の活動、自律神経のバランスをとる方法など、具体的な対策がとれますよね。一方で、時代のスピードが速いので、対策が追いつかないという課題もあります。私たちはいま、休養をとるためのオフの時間がとりづらい。つまり、毎日の生活に“余白”がないんですね。過去には、仕事中に給湯室に行って同僚とちょっと話をするとか、会社の外に出てコーヒーを1杯飲もうとか、そういうことができた時代もあったと思います。
そういう余白って、本来私たちがじょうずにオンオフのバランスをとるためのすき間時間だったんです。今は、ちょっとした時間すら惜しんでメールやチャットをしていますよね。ツールの発達による恩恵でもありますが、マルチタスクで24時間稼働できるデバイスに私たちが合わせることで、体が悲鳴を上げている。そのことに対して「何かおかしいよね」と感じる方が多くなっているのも、休養学がこれほど受け入れられていることの背景にあるのかなとも思っています。
疲労は「怠け」「サボり」ではなく、体の悲鳴

――休養学について学ぶことが、休みやすい空気を作る後押しにもなるということでしょうか。
片野先生:日本人はとても勤勉で、人の目を気にしてしまいがちですよね。痛み、発熱、そして疲労の3つが体の三大アラートといわれていますが、痛みと発熱に対してはみなさん共通認識があるので「危険だから、早く帰りなさい」と言ってもらえることが多いですよね。でも、疲労に関しては、明らかに体が出す悲鳴であるにもかかわらず、「怠け」「サボり」と思われそうで言い出しづらい。
疲れた状態で仕事を続けることは非効率で生産性が落ち、場合によっては事故につながってしまう。そういうことも含めて、休む理由が明確かつ学術的に認識できれば、必要な休養はとるべきだということになると思うんです。
日本リカバリー協会で毎年行っている調査では、日本でいちばん疲れているのは20〜30代の女性だというデータが出ています。家事はいまだ女性に偏りがちで、仕事や家事、育児とタスクも多い。いつの間にか子どもや家事のペース、あるいは会社のペースに合わせてしまい、巻き込まれながら毎日を過ごしてしまっている。そうなると、そのペースにも疲弊してくるんです。まだまだ、そういう方々が多くいらっしゃるのかなと思います。
「疲労の反対語は休養ではない」いま日本人に必要な休み方とは

――『休養学』の反響とともに、休養という言葉やとり組みの広がりは感じられていますか?
片野先生:「休養学」はおかげさまで翻訳版の出版が始まりました。「疲労大国日本」などとよくいわれますが、その日本で私たちが対策をいち早く考え、こうしてトレンドワードとしてとり上げられるなど、疲労の対策としての休養が浸透し始めた。さらにそれが日本の外に向かって発信され始めているというのが「休養」についての現在地です。ビジネスとしても広がりを見せていて、私どもとさまざまな企業で「休養旅」「リカバリーオフィス」「シェア休養室」などのとり組みが進んでいます。
一方で、やはり、まだまだ教育が足りないと思っています。栄養、運動とともに休養についても義務教育で習う仕組みができるまでには、まだ時間がかかるでしょう。しかし、マルチタスクに合わせた生活で遅かれ早かれみなさんへとへとになっていく。そうなると、もう待ったなしです! そんななか知っておいてほしいのが、疲労の反対語は休養ではないということです。
疲労の定義をカンタンに伝えると「過度の肉体的、精神的な活動によって活動能力が減退している状態」ですが、これはあくまでも状態を指します。休養は状態ではないので、疲労の反対語にはなりません。休養によって活動能力が増進・増幅した状態が疲労の反対語で、それは「活力」。この理解をもっともっと広げていかなければいけないと思っています。
――活力はどのようにすれば蓄えられるでしょう?
片野先生:自分からとりに行かなければいけません。休んだだけで自動的に活力が高まると錯覚していると、活力が蓄えられないまままた活動に戻ってしまいます。なぜこの錯覚が起こるかというと、過去に、無意識のうちに休養している余白があり、その余白のなかでじょうずに活力をアップさせる行動をとっていたから。でもいまはその余白すらとれない環境なので、能動的に自分からその余白を作って活力を高める行動をとらなきゃいけない。そんな時代になっていると思います。
忙しい毎日に“余白”を! 休養は自分からとりにいこう
休養は、ただ活動を止めたり、長く眠ったりすることだけではありません。次の活動に向けて活力を高めるために、自分から休養を「とりにいく」ことが大切です。
仕事や家事に追われ、わずかなすき間時間にもスマホを手にしてしまう現代だからこそ、まずは休養について正しく知り、自分の生活に必要な“余白”を意識することが、よりよい毎日への第一歩になりそうです。
では、自分に合った休み方は、どのように見つければよいのでしょうか。続く第2回は、これまでに自分が行ってきた休養行動の棚卸しや、休養のタイプ分け、オフの時間の時間割を作る方法について、片野先生にお話を伺います。
<この記事の監修者>

片野秀樹
博士(医学)。一般社団法人日本リカバリー協会代表理事。東海大学大学院医学研究科、東海大学健康科学部研究員、東海大学医学部研究員、日本体育大学体育学部研究員、特定国立研究開発法人理化学研究所客員研究員などを歴任。現在は日本疲労学会評議員、博慈会老人病研究所客員研究員、日本抗加齢医学会指導士、株式会社ベネクス エグゼクティブフェローなどを務める。「休養」を学問として体系化した『休養学:あなたを疲れから救う』(東洋経済新報社)の著者。2025年には『毎日がんばるあなたのための 疲労学』(東洋経済新報社)を刊行し、疲労と休養について幅広く発信している。
一般社団法人日本リカバリー協会:https://recovery.or.jp/



