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精神科医が解説。疲れ・メンタル不調が表面化する理由。タイプ別にみる不調を防ぐ対策法
9月は、夏の疲れが一気に表面化しやすい時期です。長い夏休みでリズムが崩れたり、子どもの世話でバタバタしたり、猛暑の中での外出や仕事で蓄積した疲労が、秋の入り口でどっと出てくることがあります。精神科専門医の広岡清伸先生によると、こうしたメンタル不調は「枯渇型」と「過敏型」、その両方が重なった「複合型」に大別されるといいます。自分のタイプを知り、早めのケアで元気に乗り越えましょう。
Contents 目次
メンタル不調を招く理由

メンタルの不調が表面に現れるのは「平常心」と「情動クッション」が弱まっているからといいます。「平常心」と「情動クッション」とは一体何のこと? 精神科医の広岡先生に解説していただきました。
「メンタルの安定を支えているのが『平常心』と『情動クッション』の2つです。ここでいう『平常心』と『情動クッション』は、私が長年の薬物療法・精神療法の臨床経験に基づいて考案・整理した独自の概念です。平常心とは、外部からの刺激があっても感情が大きくゆれすぎず、自分の中心を保てている状態のこと。そして情動クッションとは、ストレスを受けたときに感情のゆれを和らげる、心の緩衝材のような働きを指します。
この情動クッションが十分に機能しているうちは、多少のストレスがあっても平常心を保てます。ところが、疲労や睡眠不足、環境の変化などが積み重なると情動クッションの働きが弱まり、同じできごとでも強く落ち込んだり、不安が長引きやすくなったりします。9月はまさに、夏の間に蓄積した疲れがその引き金になりやすい時期なのです」(精神科専門医 広岡清伸先生)
また、メンタル不調の現れ方は、基本的には「枯渇型」と「過敏型」の2つに分けられ、両方が重なる場合を「複合型」と考えます。これらは、広岡先生が長年の薬物療法・精神療法の臨床経験を整理し、一般の方にも理解しやすいように考案した独自の分類概念です。
● 心身のエネルギーが尽きる「枯渇型」
「期待に応えなければ」「早く慣れなければ」と気持ちを奮い立たせてきた結果、気づかないうちにエネルギー切れの状態に陥るのが枯渇型です。最初は気力で持ちこたえられても、プレッシャーによる睡眠不足や疲労が蓄積し、夏が終わるころに強いだるさや気力の低下として現れます。このタイプには、睡眠・休息・食事・仕事量の調整でエネルギーを回復させることが最優先です。
● 外部の刺激に敏感に反応しやすい「過敏型」
人間関係や評価、環境の変化に対して神経を張り詰めて適応してきた人が陥りやすいのが過敏型です。「自分はできていないのでは」「周囲に迷惑をかけているのでは」という不安を抱えやすく、緊張が続きがちです。このタイプには、刺激との距離のとり方や自己評価の基準を見直し、心が過敏に反応しすぎないようにすることが大切です。
あなたはどのタイプ? セルフチェックしてみよう!

まずは自分の状態を知ることが、立て直しの第一歩です。以下の項目で「はい」と思うものをチェックしてみましょう(「はい」1点、「いいえ」0点)。
【A】枯渇型チェック
□ 仕事量が多く、定時内に終わらないことが多い
□ 休日も仕事のことが頭から離れない
□ 睡眠時間が6時間を下回ることが週3日以上ある
□ 食事を抜く、または同じものばかり食べることが多い
□ 完璧にこなせないと、自分を責めてしまう
□ 飲酒量が以前より増えた
【B】過敏型チェック
□ 上司や同僚の言葉・表情が気になって頭から離れない
□ ミスをすると、必要以上に長く引きずる
□ 疲れているのに、深夜までSNSやゲームをやめられない
□ 確認作業を何度もしないと不安になる
□ 周囲の評価や視線が常に気になる
□ 自分は周りより劣っていると感じることが多い
【チェックの見方】
0~2点:現時点では該当項目が少ない
3~4点:やや傾向がみられる
5~6点:傾向が強くみられる
当てはまる項目が多いほど、その傾向が強まっている可能性があります。
・Aが多い場合:心身の疲労が蓄積した「枯渇型」傾向
・Bが多い場合:周囲の刺激や評価に反応しやすい「過敏型」傾向
・A、Bの両方が多い場合:2つが重なった「複合型」傾向
※このチェックは診断を目的としたものではありません。症状が続く場合や生活に支障がある場合は、医療機関に相談してください。
タイプ別の予防と対策法
「枯渇型」は、まずは「休む」を最優先に。
飲酒やカフェインでムリに乗り切るといった習慣が疲労を悪化させます。不眠がちで、眠れないままつい深夜までSNSを見てしまう…といった悪循環にも注意しましょう。睡眠時間の確保と仕事量の見直しを意識しましょう。ひとりで抱え込まず、必要に応じて周囲に相談することも大切です。
「過敏型」は、「できていないこと」より「できていること」に目を向ける。
自分がどんな場面で不安や緊張が高まるかを把握し、必要以上に刺激を受けない工夫をしましょう。できていない自分を責めるのではなく、今できていることを基準に自分を見つめ直すことで、神経の緊張がゆるみやすくなります。
「複合型」は、両方の対応を同時に。
生活リズムの見直しと、神経の緊張を和らげるアプローチの両方が必要です。朝起きられない、気分の落ち込みが続く、頭痛や胃腸の不調など体に出る症状が強いときは、早めに医療機関へ相談しましょう。
次に、メンタル不調をサポートする栄養素についてご紹介します。
脳の働きをサポートする栄養素3つ
脳は栄養状態の影響を受けやすく、夏の疲れや食欲の乱れで栄養が不足しがちになります。食事面を整えることは、心身を安定させる土台になります。そこで、広岡先生に「枯渇型・過敏型」それぞれに役立つ3つの栄養素を教えていただきました。
1.タウリン
・枯渇型への働き:心身のエネルギーが不足している状態のため、回復に必要な栄養を補給することが重要です。タウリンは細胞内のミトコンドリアの働きを保ち、体内でエネルギーを生み出す仕組みを支える働きがあります。だるさや疲労感の改善をサポートすると考えられています。
・過敏型への働き:神経の緊張が続きやすい状態では、過剰な興奮を抑える働きが必要です。タウリンは脳内で抑制性神経伝達(GABA受容体)に関わり、神経の昂ぶりを鎮め、外部刺激に対する「クッション」として働く可能性があります。
2.ビタミンB群
・枯渇型への働き:ビタミンB群は糖質や脂質、たんぱく質の代謝に関わり、疲労感やだるさが続く状態でのエネルギー産生を助けると考えられています。食べたものを活動エネルギーに変える働きを支えるため、元気が出ない、集中できないといった状態からの回復をサポートすると考えられています。
・過敏型への働き:神経伝達物質の合成や神経機能に関わるビタミンB群は、イライラや不安感、思考のまとまりにくさがあるときに、神経の過度な緊張を和らげ、気分のゆれを整えるのに役立つ栄養素であると考えられています。
3.たんぱく質
・枯渇型への働き:体の修復や酵素・ホルモンの合成に関わり、低下した回復力を立て直すのをサポートすると考えられています。
・過敏型への働き: 神経伝達物質の材料となるたんぱく質は、情緒の安定にも効果があると考えられています。食事量の低下や軽食中心の食事が続くと神経機能が不安定になりやすいため、安定した心身の状態を保つためにも、意識してとりたいベースとなる栄養素です。
タウリンは魚介類に多く含まれる成分で、体内のバランスを整える恒常性の維持に関わります。ビタミンB群は肉・魚・卵・豆類などに含まれ、エネルギー代謝や神経機能を支えます。たんぱく質は筋肉だけでなく、神経伝達物質やホルモンの材料にもなります。忙しい時期こそ、主菜をしっかり食べる習慣を意識してみてください。
メンタル不調を防ぐ、日常生活の見直し

(1)「寝る」「食べる」を後回しにしない
メンタルを安定させる基本は、やはり睡眠と食事です。食事を抜く、同じものばかりで済ませる、外食やコンビニ食が続くといった状態が重なると、脳や体を支える栄養状態が不安定になり、不調を悪化させます。どんなに忙しくても、「寝ること」と「食べること」だけは後回しにしないようにしましょう。
(2) 力みすぎず、平常心を保つ
新しい環境や慣れない状況の中では「がんばらなければ」と自分を追い込みがちです。でも、できていない部分ばかりに目を向けることは、不安感を強め、神経をさらに高ぶらせるだけ。理想どおりにできていない自分を責めすぎず、過度に力みすぎない意識を持つことが、平常心を保つ近道です。
(3) 体を動かす時間を作る
忙しいときほど体を動かす機会が減りがちですが、それが睡眠の質の低下や気分の切り替えにくさにつながります。本格的な運動でなくてもOK。散歩や通勤時に少し遠回りするなど、日常の中で体を動かす習慣をとり入れるだけで、生活リズムが整いやすくなります。
(4) 不調が続くときは、医療機関に相談する
休養や生活の見直しを行っても立て直しが難しい場合、不調が長引いて日常生活に支障が出ている場合は、医療機関に相談することも考えてみてください。不安や抑うつ、気分の波、神経の高ぶりなどが続くときは、状態に応じた薬物療法を含む専門的なサポートが有効です。ツラさをひとりで抱え込まず、「相談する」という選択肢を持っておくことが、回復への大切な一歩になります。
メンタルの不調は、弱さでも怠けでもありません。夏の疲れや環境の変化が重なった結果、心の緩衝材「情動クッション」が消耗しているサインです。小さな違和感の段階で立ち止まり、生活や考え方を整えることが、不調の予防にもつながります。自分をちゃんといたわることから始めてみてください。
【監修者】
広岡清伸(ひろおか きよのぶ)先生 広岡クリニック院長
精神科専門医・指導医・精神保健指定医。日本大学医学部卒業後、東京大学医学部附属病院などを経て1992年に横浜市港北区に広岡クリニックを開設。独自の「肯定的体験療法」を提唱し、これまで1万人以上の診療に携わる。著書に『心の病になった人とその家族が最初に読む本』(アスコム)、『広岡式こころの病の治し方』(日経BP)など多数。
文/FYTTE編集部



